【調香師の手帖③】賦香率(ふこうりつ)とは、香りの「距離」のこと。数字の奥に潜む性格について

香りは、濃ければいいわけではありません。
——ここ、よく誤解されるところです。
今日は「賦香率」という、
いかにも堅そうで、実はかなり面白い話をひとつ。
賦香率、という言葉は、どうも少し堅苦しい。
まるで帳簿の中にでも出てきそうな顔をしている。
けれども、この無愛想な言葉の中に、香水の面白さがきちんと収まっているから不思議だ。
香水というのは、瓶の中に入った「香りそのもの」ではない。
アルコールに、香料をどれくらい混ぜるか――その“加減”でできている。
その加減を数字にしたものが、賦香率である。
たとえば、よく聞く分類を並べると、こんな具合だ。
・オーデコロン:2〜5%
・オードトワレ:5〜10%
・オードパルファム:10〜15%
・パルファム:15〜30%
こう書くと、なんだか理屈っぽいが、実際のところはもう少しゆるやかだ。
この数字は「厳密なルール」というより、「だいたいの雰囲気」に近い。
そしてここが肝心なのだが、賦香率が高いからといって、いい香水になるわけではない。
むしろ逆で、香りの印象は、濃さよりも“振る舞い”で決まる。
賦香率が低い香水は、軽やかで、ふっと消える。
風のようで、あとを引かない。
朝の散歩にはちょうどいい。
一方で、賦香率が高いものは、ゆっくりと広がり、長く残る。
少し重たくて、夜向きの顔をしている。
つまり賦香率というのは、香りの強さというより、「性格の方向性」を決めているようなものだ。

ここでまた、話は少しややこしくなる。
同じ15%でも、入っている香料によって、感じ方はまるで違う。
シトラスばかりで組んだ15%はあっさりしているし、ムスクやウッディが多ければ、ぐっと存在感が出る。
だから賦香率というのは、あくまで“ひとつの目安”。
料理で言えば、塩分濃度のようなもので、それだけでは味は決まらない。
それでも、この言葉が残っているのは、やはり便利だからだろう。
オードトワレと書いてあれば、軽めで日中向き。
パルファムとあれば、少し特別な場面向き。
そんなふうに、使う側がイメージしやすい。
ただし、最近は少し事情が変わってきている。
香料の技術が進んで、低い賦香率でも長く香るものがあるし、逆に高くても軽く感じる香水もある。
つまり、賦香率は昔ほど“絶対的な指標”ではなくなってきている。
それでも――
香りをつくる人間にとっては、この数字はやはり重要だ。
どれくらい主張させるのか。
どれくらい余白を残すのか。
そのバランスを決める、ひとつの手がかりになる。
賦香率とは、香りの濃さというより、
その香りがどんな距離感で人と付き合うかを決めるものなのかもしれない。
近くでささやくのか、
少し離れて漂うのか。
そんなことを、静かに決めている数字である。